軍学共同―今問われる 科学者の未来への責任
軍事研究を拒否するのか、それとも防衛省や米軍の資 金受け取りを容認するのか―。日本の科学者を代表する
日本学術会議の 「 安全保障と学術に関する検討委員会」 は7日、昨年6月以来の議論をとりまとめた声明あるい は報告を提案、4月の総会にかける予定です。今、研究 者が軍の資金を受けることはどんな意味を持つか―。この間の学術会議の議論から考えます。
学術会議の議論から考える。
歴史忘れてはならない
検討委員会などの議論では、防衛省が大学などに資金提供する「安全保障技術研究推進制度」を懸念し、反対する人が多数です。 一方、資金受け取りを容認し「自分の研 究は民生利用が目的。軍事に役立つとしても、軍事研究ではない」とする声もあります。
これに対し、学術会議が主催した公開フォーラム(2月4日)などでは、「一人ひとりの科学者の社会的責任が問われている」との意見が相次ぎました。 兵藤友博・立命館大学教授(科学史)は「防衛省の制度は、防衛省が研究の進行状況を管理し、学術を防衛装備(武器)の開発に協力させる目的基礎研究だ」と指摘。
「『自存自衛』で始まった戦争に協力したこと、科学研究が軍の管轄下で行われ、破壊と人命の殺傷をもたらしたことへの反省を繰り返してはならな い」と歴史の 教訓を強調。羽場久美子・青山学院大学教授 (国際政治 ) は「戦争研究をしていと 、科学者こそが戦争や軍事を残虐化してきた歴史がある。 その人道的責任を考えるべ きだ。戦争は過去のものではない」と発言しました。
科学研究、ことに基礎研究の成果がどう使われるかは使い方次第であり、研究自体が軍事か民生かの区別は できません。
須藤靖・東京大学教授(物理学 )は「ましてや 、防衛と軍事は違うなどという区別はできない。軍事研究か どうかは 、資金元がどこかによって定義すべきだ 」と指摘しました。
福島雅典。先端医療振興財団臨床研究情報センター長は「(防衛省などの資金を受けながら)基礎研究だから軍事研究ではないという議論はまやかし。自分を欺いているか、想像力の貧困だ 。研究者は、未来に対して自分の研究のもつ意味を考え抜く責任がある」と賛成論を厳しく批判しました。
「自衛」ならいいの か
「危険な国がある以上、自衛のための軍事研究は必要」(小松利光・九州大学名誉教授、防災)という発言に対し、福島氏は「アインシュタインは、ナチスに先んじて原爆を開発すべきだと米大統領に進言した。その結果へのアインシュタインの苦悩を心に焼き付けるべきだ。そこから出されたのが、核兵器廃絶と科学技術の平和利用を訴えたラッ セル・アインシュタイン宣言(1955年)であり、戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わないとした学術会 議の2度の声明だ。過去を記憶できないものは過去を繰り返す」と指摘しました。
学術会議の第3部会(理工系)では「北朝鮮の科学者も自国の防衛のためと思ってやっているだろう」との意見も 出されています。
検討委員会の杉田敦委員長(法政大学教授・政治学)は「政府の中に敵基地攻撃論があるなど自衛概念の拡大がある中で、『自衛』という線で区切る議論には賛成できな い」と述べました。
学術の 発展を 妨げる
大西隆・日本学術会議会長は、学長を務める豊橋技術科学大学の研究者が防衛省の資金を受けていることについて「有毒ガス吸着の基礎研究で、軍事研究ではない。防衛省が(資金提供)しなくてもいいが、制度があるから応募した」と述べました。こうした「資金を利用すればいい」論には、「学術の健全な発展を妨げる」という批判が相次 ぎました。
「安易にそういう資金を受けると、防衛装備庁の予算は拡大し、その分、文科省などの予算は減る。気づけばみんな軍事関係のお金ということ になる。そうなったときに学術研究の自律性が保たれるのか。結局は基礎研究の弱体化をもたらす」(須藤氏)
「防衛省の委託研究は防衛省の職員が進行状況を管理するもので大学を大きくゆがめる」(小沼通二・慶応大学名誉教授、物理学)
教授が防衛省や米軍の委託 研究に応募することは、院生や学生を巻き込み「彼らの思想の自由を侵害する。教授個人の問題ではない」「研究現場に軍事秘密が持ち込まれる」などの意見も複数の人から出されました。
「戦争する国」づくりの中で
「どんな社会的背景から防衛省の制度が出ているか、もっと議論をすべきだ」との声も上がりました。防衛省の同制度の予算は、初年度(2015年度)の3億円から、6 億円、110億円と3年で急膨張しています。
赤丼純治・新潟大学名誉教授(鉱物学)は「この制度は、日本版の本格的軍産官学複合体体制を目指すものだ」と指摘します。
13年の防衛計画大綱は「産学官の力を結集させて…大学や研究機関との連携の充実等により、防衛にも応用可能な民生技術の積極的な活用に努める」と明記。14年には武器輸出三原則が廃止され、15年9月に戦争法強行、同10月には防衛装備庁が発足しました。防衛装備とは武器及び武 器技術としています。
戦争法強行に先立つ15年4 月に米国と結んだ日米防衛協力の指針(新ガイドライン)には「教育・研究交流」も書き込まれています。米軍と一体になった「戦争する国」づくりの中で、防衛省の大学などへの資金提供制度が作られ たといえます。
「学問、学術は未来を見つめる視点が重要だ。今後100年、200年後の歴史にどのように書かれるか、そのことを想像すべきだ」( 赤丼氏)。今、科学者・研究者の 未来への責任が問われていま す。
日本学術会議:
1949年創設。首相の所轄機関だが、政府から独立して科学に関する重要事項の審議など行う。50年「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」、67年「軍事目的のための科学研究を行なわない声明」を発表。
50年「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/01/01-49-s.pdf
67年「軍事目的のための科学研究を行なわない声明」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/04/07-29-s.pdf

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