わたしたちの人権は今 (暮らしとからだ No.633号より)
みどり野診療所が無料・低額診療事業(無低診)の取り組みを始めてから5年目に入りました。無低診とは、経済的な理由で必要な医療を受ける機会が制限されることのないよう、医療費の全額または一部を免除する制度。医療費の支払いが困難な患者さん の相談にのりながら見えてきたことは? ソーシヤ ルワーカー(SW)の松井由美子さんの報告です。
増える適応件数
みどり野診療所で無低診の取り組みが始まった2012年度の適用件数は4 件でした。地域や友の会のみなさんとの連携が進んだ2013年度には10件、2014年度は21件と倍増しました。
最近はインターネットで情報を得て相談に来られる方や、他院所からの紹介で来られる方もいらっしゃいます。
Mさん夫妻(80代)
Mさん夫妻(80代)は、妻の年金はなく、夫の年金(月17万円ほど)で生活していました。妻は脳梗塞による片麻痺があり、介護サ―ビスの利用をきっ かけに相談に来られ、無低診の適用を開始しました。時期をみて身体障害者手帳を申請したところ、2級で重度障 害者医療証の交付を受け、妻の医療費用の心配はなくなりました。
預貯金がなく今後の生活も不安なので生活保護申請を検討しましたが、妻の障害認定によって市営住宅の家賃が安くなるなど、収入が生活保護基準より若干上回るとのことで保護には至りませんでした。
ところがその後、妻の介 護保険料を支払いきれずに 滞納してしまい、〃ペナルティー″として利用料が全額自己負担となりました。 それ以前は介護用ベッ ドのレンタルと入浴のためのデイサービスを週1 回利用していましたが、 デイサービスはあきらめ、気丈な妻は自力でシャワーを使えるようになりました。1年かけて滞納していた保険料を支払い、今は通常の1割負担に戻っていますが、妻はこの1年間に転倒で腕を2回骨折してしまいました。
夫の心身の機能低下により、家事全般は妻の負担となっています。
Kさん(50代男性)
Kさん(50代男性)は離婚後単身となり、派遣切りで失職。次の職が見つからず、糖尿病の治療を中断していました。生活費が不足した際の借金返済が600万円に膨れ上がり、家賃も数ケ月滞納、国民健康保険料も滞納していたため、(いったん窓口で医療費を全額自己負担しなければならない)資格証明書を交付されていました。
当院に相談に来られてすぐに無低診の適用となり、役所の国保課に滞納保険料の支払い計画の相談をして、通常の保険証を手に入れました。その後、再就職はできたものの、フルに働いても収入は生活保護基準の130%ほどであり、滞納保険料の支払いが追い付かず、一 部給与の差し押さえを受けている状況です。
不安定な雇用や貧困が広 がるなか、高すぎる医療・介護保険料が被保険者を苦しめ、滞納すれは過酷な取りたてや“ペナルティ”が襲いかかる実態に心が痛みます。
職員全体で努力
日本の相対的貧困率は16.1%と過去最悪を記録しており、中でも高齢者と母子家庭は深刻です(高齢者夫婦20%、高齢単身男性40%、高齢単身女性50%、母子世帯60%) 。孤独死や介護心中、家庭内暴力など日々起こる社会的事件の背景に、貧困とそれにともなう家族の孤立化があるように思います。診療所として患者さんの医療・介護を保障しながら、職員全体で生活の見守り、相談、援助ができるよう努力しています。病気と同じで、生活問題も早期発見・早期サポー トが大切です。
資困問題解決こそ
また、友の会のみなさん と協力して、患者さん同士をつないだり、サークル活動や昼食会への参加を呼びかけたり、患者さんを孤立させない、診療所を中心とした緩やかなつながりを作っていけたらとも考えています。
貧困の中で社会から疎外され、孤立している当事者が声をあげることはまずありません。患者さんたちの切実な声を届ける活動を通じて、貧困問題を解決する一助になれたらという思いです。
http://midori-tomo.at.webry.info/theme/0c72ecf14f.html


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