文化の話題  コロナ禍に学び合う世界の記者たち



大矢 英代

「私は差別される側の一人だ」。そう痛感した出来事があった。3月上旬、カリフォルニア中部のある街で買い物中のこと。「何 ? 聞こえない」。カウンターでほしい商品を注文した私に、男性店員は眉をひそめた。発音が悪かったのだろうか。気を取り直して言い直すが、通じない。「君、何言ってんの?」。男性はぶっきらぼうに言い捨てた。英会話でつまずくことはまれだ。何かがおかしい。男性は嫌味たっぶりのため息をつくと、冷たい視線 で私を見下した。明らかに私を軽蔑していた。

2020-05-29-1-半年前に開店したカフェ.jpg

恐怖のはけ口が弱者への暴力に

これは2月以降、全米各地で広がるアジア系ヘの差別の一端にすぎない。日刊紙「サンフランシスコ・クロニクル」の報道によると、3月に全米で報告されたヘイトクライムは約1500件で、うち600件(40%)がカリフォルニアで起きた。「罵声を浴びせられた」などが70%で、暴行は10%にのぼる。新型コロナウイルスという見えない恐怖が人々の心を蝕み、恐怖のはけ口が社会的弱者への暴力として噴出している。そのターゲットの一人は私自身だ。

渡米から1年半、今は同州フレズノに住み、大学の客員研究員として勉学も取材も何不自由ない 生活だった。しかし、3月17日、サンフランシスコ一帯の地域・ベイエリアがロックダウン(都市封鎖)に、その2日後には州全土で自宅待機指示が出された。現場取材に出られない、人に会えない、異様な生活が続く。万が一、感染し重体化すれば、適切な治療を受けられるかどうかは危うい。しかも日本のように国民保険がない米国では多額の医療費が請求されるだろう。ジャーナリストである以前に、一人の外国人として不安を抱え生きている。

コロナ禍にこそ 手を取り合って

しかし、ジャーナリズムの世界には希望も見える。世界最大規模の調査報道組織 「GIJN」は、今年4月以降、毎週オンライン会議を開催。世界各地からジャーナリストや研究者らが登壇し、最新状況を報告し、問題を 共有する。コロナ禍だからこそ世界中の記者同士が手を取り合おうという試みだ。

中でも「根拠を評価する」(5月7日)は目からうろこの内容だった。「コロナの特効薬が開発された」など世界各地から次々と最新情報が飛び出す中、情報をうのみにせず、提示された根拠を批判的に分析する評価方法についてだ。もし怠ればフェイクニュースを拡散することにもつながりかねない。まさに全世界のジャーナリストたち(中でも医療を専門としない記者たち)が頭を抱えている問題だ。

登壇者の一人で、スイス在住のジャーナリスト、センナ・ティナリ氏は、特効薬や治療法を報道する際には三つの点が重要だと指摘する。①根拠として示された研究論文を精読する②投薬試験の方法やデータの使い方など信ぴょう性を確かめる③タミフル問題など過去の事例から学ぶこと。

ティナリ氏は「報道向け発表をうのみにしてはいけない」と強調する。「製薬会社や企業が研究費を出している場合もある。利害関係がからむ研究結果は信ぴょう性を疑うべきだ」。)また、記者が専門知識の不足を理由に、専門家の意見に頼りすぎる報道にも警鐘を鳴らす。「専門家が企業から金銭を受け取っていたり、団体や企業の役員になっている場合もある」

政府の言いなり「あきれる実態」

果たして日本のメディアはどこまでできているだろうか。4月27日、日本の独立系調査報道メディア「フロントラインプレス」は「新間・テレビ『政府の言いなり』の何ともあきれる実態」と題して、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)が実施したアンケートをもとに、日本国内の記者たちの声を伝えた。「政府側から『医療崩壊と書かないでほしい』という要請が行われている」など驚くべき実態が露呈した。″大本営発表″と化す日本のメディアと、企業の枠を超えてつながり学び合う世界の調査報道ジャーナリストたち。米国から見つめるその差は絶望的なほど大きい。

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