危機の経済 識者は語る 利潤優先社会変える時 日本医療総合研究所研究・研修委員 寺尾 正之さん(下)




保健所が減らされた背景には、1994年に保健所法が地域保健法に改定されたことがあります。

都道府県の保健所は、より広域化した所管区域を設定され、統廃合が行われてきました。保健所は地域における公衆衛生の向上・増進を図るための中心機関ですが、新たな業務が追加され、少ない人員で広い地域を担当し、住民密着の業務が困難になっています。ここに、新型コロナウイルス感染対策が直撃しました。政府の専門家会議も指摘したように、保健所の「現場の業務負担と疲弊感はすさまじい」状況です。

国は結核患者の減少を理由に、″感染症の時代は終わった″として、感染症研究所、衛生研究所、保健所などを縮小し、公共サービスを削減してきました。コロナ危機により、こうした政策の誤りが露呈しました。今回の危機を契機に、感染症専門家の育成、感染症病床の増床と充実、保健所の調査・検査体制の強化、疾病対策センター(CDC)の創設をはじめ、弱体化した公衆衛生システムの大転換が必要です。

責任すり替え

政府の全世代型社会保障検討会議(議長=安倍晋三首相)は、経済成長戦略の観点から健康づくリビジネスや予 防を重視する方針を示しています。人口減少社会が進行する中で、必要な働き手を確保するため、高齢者を安上がりの働き手として活用しようとしています。健康がその前提になるとして、予防と健康づくりへの自助努力を求めています。

経済産業省が示した「予防の投資効果」の試算では、労働力を最大840万人確保することが可能になり、年1兆 8千億円の消費の拡大が見込まれるとしています。

しかし、感染症をはじめ、病気には誰でもかかる可能性があります。自助努力や自己責任で解決できる問題ではありません。だからこそ、公衆衛生、医療などの社会保障が構築されてきました。自己責任や助け合いの問題にすり替えることは、公的責任をあいまいにすることになります。


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自己負担を増

感染症対策の観点からは、 所得の多寡に関係なく医療ヘのアクセスを保障することも重要です。ところが安倍政権は医療費抑制政策に固執し、現在は原則1割の75歳以上の医療費窓口負担について「一定所得以上は2割」に引き上げようとしています。「一定所得」をいくらにするかによって、実質的に原則2割に近づいてしまいます。

75歳以上の高齢者のうち、9割が外来で何らかの慢性疾患を治療し、6割が2種類以上の慢性疾患を治療しています。このため、収入に対する医療費の自己負担は年7万5千円で、窓口負担が2割・3割の75歳未満の人より1.7倍も高くなっています。しかも、9割の人が所得200万円未満と困窮しています。2割負担を押し付けることは、受診抑制。中断を広げ、重症化を招くばかりか、コロナ危機のもとで将来への不安を増長させることになります。

厚生労働省の社会保障審議会では、▽外来で受診したときの窓口負担に定額(数百円)負担を追加する▽所得や金融資産に応じて3割負担となる対象を広げる▽市販している薬と類似の効能がある薬の患者自己負担を引き上げる―ことなども検討されています。

今後、失業者の増加や経営 悪化などに伴い、経済的に厳しい状況に置かれる人々の増加が想定されます。国民の命と健康、生活を脅かす医療費抑制政策は大転換すべきです。社会保障の充実は、多くの国民の将来不安を取り除いて消費を活性化するだけでなく、生産誘発効果や雇用誘発効果などを通じて日本経済を底支えします。

コロナ危機を乗り越えた先には、すべてを市場原理に委ねて資本の利潤を最大にする社会ではなく、憲法25条を生かして社会保障に手厚い社会へ踏み出すことが大きく問われています。

(この項おわり)

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