危機の経済 識者は語る 少なすぎる集中治療室 日本医療総合研究所研究・研修委員 寺尾 正之さん(中)





重症の感染症患者を治療する集中治療室(ICU)の病床数(人口10万人当たり)をみると、ドイツは20.2床と世界的にトップクラスです。医療崩壊が起こったイタリアでも12.5床です。日本は4.3床と少なすぎます(通常の医療を縮小しICUに準じた機能をもつ病床の人員を増やしても最大13.5床)。ICU病床には医師や看護師などの人員が大幅に割かれるため、その他の一 般病床が手薄になり、手術や救急搬送患者が制限される事態まで生じています。

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負の循環広く

本来、医療には緊急時のための余力、余裕が大事です。常にぎりぎりまで入院患者を受け入れる「効率化」ではなく、余裕のある病床受け入れ体制と人員体制が必要です。院内感染の発生で病院が愚者の受け入れを休止した場合、その地域にある他の病院でカバーしなくてはなりません。ドイツでは平時に「過剰」と 名指しされた病院病床によって、コロナ危機時に重症患者を適時に治療する態勢を整えることができ、多くの命を救えました。

医師の絶対数が不足していることも医療体制の弱体化を招いています。日本の人口千人当たり医師数は2.4人で、経済協力開発機構(OECD)の加盟国平均は3.5人です。あと約14万人養成しないと平均値には達しません。7カ国(G7)のなかで日本の人口当たり医師数は最低で、フランスの7割、ドイツの6割の水準にすぎません1982年に″将来は医師過剰時代になる〃として医学部の入学定員を抑制する閣議決定が行われ、定員削減が2008年まで続いたことが背景にあります。

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看護師不足も深刻です。感染症の重症患者に人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を装着すると、一 般病床の患者と比べ何倍もの人数の看護師が必要になります。体力的にも精神的にも厳しい状況に置かれ、看護師の免疫力が落ちて感染する危険も高まります。院内感染が起これば、感染の可能性がある医療従事者は現場を離れざるを得ず、ますます人手が不足します。この負の循環は各地の病院で広がっています。

重症や重篤の患者は集中治療が24時間体制で続きます。通常の医療体制の維持を含め、かなりの人員を確保することが必要です。いま医療現場は人、物、お金が不足し、疲弊しています。感染蔓延(まんえん)から国民の命を守り、医療崩壊を止めるため、医療体制を拡充することは待ったなしの課題です。

対策が弱体化

ウイルスの流行は公衆衛生の問題であり、感染症は公衆衛生にとっては常に重要な課題です。公衆衛生(パブリ ック・ヘルス)は直訳すれば 「公共的健康」です。憲法25条には、国民の生存権とともに、国の責務として公衆衛生の向上および増進を図ることが明記されています。

厚生労働省の公衆衛生審議会は「国際交流の活発化や航空機による大量輸送の進展により、感染力が強く重篤な感染症の発生。拡大の危険性」に警鐘を鳴らしていました。

ところが、国の感染症対 策の中核を担い、研究、ワクチン開発、流行状況の調査・監視などを行う国立感染症研究所は、研究の継続性や感染症対策が弱体化しています。研究者の定員が長期にわたって減らされ、予算も10年前と比べて大幅に削減されています。国の感染症対策を大転換すべきです。どんな感染症にも対応できる研究基盤の確立と維持向上が喫緊の課題です。

さらに、感染症対策を担い、健康危機管理の重要な組織と位置付けられた保健所は、「効率化」によって 850
カ所(1990年) から469カ所(2020年4月1日現在)に減らされました。この30年で施設が半数近くまで減っただけでなく、予算や人員も減らされました。職員総数は約3万4千人から約2万8千人に減り、なかでも医師数は4割以上減っています。

(つづく)

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