危機の経済 識者は語る 日本医療総合研究所研究・研修委員 寺尾 正之さん(上)


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新型コロナウイルス危機は日本の医療体制と公衆衛生の対応力の弱体化を露呈させました。新自由主義による医療費抑制政策の弊害です。

企業の利益を優先する新自由主義的医療改革は、1980年代に実行された「臨調行革」路線を端緒に、1996年の橋本政権による構造改革路線によって本格化しました。2001年に発足した小泉政権は「医療費の伸びを経済財政と均衡の取れたもの」にするとして、公的医療費の抑制政策を展開しました。需要面では患者自己負担を増やし、供給面では病床削減や病院の統廃合、医師養成数の抑制を、医療の市場化・産業化と一体で進めました。

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利潤を最大化

改革の主な狙いは二つでした。一つは企業の税・社会保険料負担を軽減すること。もう一つは医療・介護分野に営利企業が進出し利益をあげることです。

医療機関経営への営利企業の参入は医療界と国民の運動に阻まれてきた一方、介護分野では営利企業の参入が認められています。入院期間を短縮して「川上」の医療から「川下」の在宅介護へ患者を速やかに流す政策がとられ、病床・医師・看護師など医療の提供体制が縮小されてきました。

また「受益者が負担する」という市場原理に沿った患者負担の増大によって、経済的弱者は意図的に受診抑制に追い込まれ、見かけ上の医療需要が削減されました。他方で営利企業を含む民間医療保険の契約者数がうなぎのぼりに増えました。

今回のコロナ危機では、医療現場のひっ迫が深刻になる地域が増え、医療崩壊が目前に迫りました。

新型コロナウイルス感染者用の病床はピーク時に3万1383床が必要だと見込まれています。しかし確保できているのは1万7698床(5月21日時点)で、56%にとどまっています。5万床を確保するという安倍晋三首相の目標とは、ほど遠い現状です。

資本の利潤最大化を狙って公的医療費を抑制してきた新自由主義的改革が、コロナ危機を深刻化させたことは明白です。

急性期を縮小

小泉政権の「医療制度改革の論点」(2003年)では、 医療費の伸びの多くを占める入院医療費を抑制するため、 病床数の削減や供給医師数の計画的削減などの「効率化を図る」ことを基本方針にしました。今後、需要が増大する高齢期の医療は、がんや脳血管疾患などの慢性期が中心であるとして、感染症を含む急性期医療の縮小を進めてきました。

急性期医療に医師・看護師や医療機器を集中投入し、病床稼働率を高め、患者の入院日数を短期化することで、急性期の病床を絞り込み、全体の病床数も減らしてきました。全国の感染症指定病床は、1998年末に9134床ありましたが、その後21年 で1884床(2019年末)に減りました。全体の病床も減少のスピードを増しており、この2年間で約3万床も減っています。

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2014年の「医療・介護総合確保法」では、新たな病床削減の仕組みである地域医療構想を導入しました。2025年時点の病床数を、本来必要な152万床から119万床に、33万床削減する構想です。急性期病床がある400超の公立・公的病院を名指しして病床の削減や統廃合を迫っています。しかし、感染症指定病床をもつ全国367病院のうち、9割を超す346病院が 公立・公的病院です。名指しリストに載った24病院は感染症病床のある病院です。

そもそも地域医療構想は、感染症対応の病床を確保するという視点を欠いています。 名指しリストの公表をはじめとする地域医療構想の推進は中断すべきです。その上で、各都道府県が作成する医療計画に、感染症対応の病床や医療従事者の確保計画、人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)などの医療機器、感染防護具の備蓄計画を具体的に盛り込む必要があります。

( つづく)

新型コロナ:https://midori-tomo.at.webry.info/theme/1b5d4cfb2f.html

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