羽田新ルート どう見る 航空評論家(元 JAL機長) 杉江 弘 さんに聞く





国土交通省は2020年東京五輪に向けた羽田空港の「機能強化」として、来年3月29日以降、都心部を低空飛行するコースの運用を開始することを決めました。都心低空飛行計画の問題点について、航空評論家で航空機の安全対策立案にも携わった杉江弘さん ( 元日本航空=JAL=機長)に聞きました。 
(東京都・川井亮)


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すぎえ・ひろし:JAL機長として、DC8、ボーイング747ヽ エンプラエルE170に乗務。JAL安全推進部調査役時代には 「スタビライズド・アプ ローチ」などの安全運航ポリシー立案、推進に従事。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多く、退役までの総飛行時間は2万1千時間超。航空安全に関する著作も多い。



―国交省が決めた羽田新ルートは、世界の流れから見てどうなのでしょうか。

私はJALの安全推進部に5年ほど在任し、運航安全ポリシーを策定する部署で調査役を務め、パイロットの操作上の ″憲法〃にあたるオペレ―ションマニュアルの原案をつくる仕事に取り組んできました。

世界の大空港は環境と安全を守るため、郊外に建設するのが主流です。例えばフランスのシャルル・ド・ゴール空港は、パリ市街から50分ぐらい離れています。イタリアのミラノ・マルペンサ空港も郊外にあります。台湾の桃園空港も台北市街から1時間以上かかります。

都心低空飛行は世界の非常識

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羽田空港の都心低空飛行計画は、世界のすう勢に反しています。

羽田ではかつて、大田区、品川区上空を飛んで騒音が激しくなったことから、上空を飛ばない約束を両区と結んでいました。今回の計画は、この約束にも反するものです。

世界の大空港で都心上空を飛行しなくなったのは、不測の墜落事故や落下物事故が起きれば、人や建物が深刻な被害を受ける危険性が高いからです。

―航空機の機体の観点から問題はないのでしょうか。

今の航空機は複雑なシステ ムを持つハイテク機です。現 在運航停止になっているボーイング737MAXの事故に見られるように、コンピューターの暴走や少しの操作間違いから制御不能になり、大事故につながる危険があります。

1994年には名古屋空港(愛知県)で中華航空機の墜落事故が起きましたが、名古屋市内に墜落しても不思議ではなかった。都心の上空で墜落事故が起き得ないと考えるのは、非常に甘い考えです。

もう一つ大きな問題は、落下物の危険です。国交省の落下物対策は、国内外の航空会社に部品の落下を起こさないよう整備を要求し、人や物が落下物被害を受けた場合、補償すると示しました。

しかし、機体が経年劣化すれば 、パネルや部品が落ちやすくなります。世界的に整備士が不足し、整備士の労働条件が過酷になっている中、国交省のデータでもヒューマンエラーが急増し、日常の整備では落下物を完全に防ぐことは困難です。

もっと難しいのが氷塊の落下を防ぐことです。長距離の国際線は気温が氷点下になる高度を飛ぶので、氷塊は大きな物で直径10センチ前後にもなります。上空約1000メートルで着陸体勢に入り、車輪を出す時に氷塊が落下するのです。

直径10センチ程度の物でも、上空から落ちれば大変な被害を引き起こすことになります。落下物に関する情報提供や補償の上乗せなどは、事後対策にすぎません。




―新ルート直下の住民か らは、騒音への懸念の声が 上がっています。


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着陸する飛行機が出す騒音も大きな問題です。国交省が示している着陸時の騒音データは、実際の飛行機を飛ばしたデータではなく、シミュレーターを使った科学的なデータでもありません。このデータは単に他の空港で採取した騒音量を参考にしただけです。

しかも、同じ機体でも重量や、2種類あるフラップの角度の使い方によって、騒音量に違いがありますが、これも示されていません。来年以降には、やはり大型のエアバスA380も来るといわれていますが、国交省はそれらの騒音データを出していません。

また、パイロットは、着陸時、風や気温の変化、それに加えて操作上、エンジンの出力を上げたり下げたりするので、より大きな騒音が出ることもあります。「騒音は最大でも80デシベル」という国交省の説明は、机上の空論です。

―国交省の打ち出した騒音対策に、現役のパイロットからも驚きの声が上がっているそうですね。

住民から騒音に懸念の声 安全脅かす無謀な降下角


国交省は最近、「騒音を少しでも軽減する」として、飛行機の着陸時の降下角を現行の3度から3・5度に引き上げると打ち出しました。

世界の人空港では、降下角は3度です。パイロットにとっては、降下角が0・1度変わるだけで外の景色、高さが全く違って見えます。かって「世界一着陸が難しい」と言われた香港啓徳空港(現在は閉鎖)でも、降下角は3・1度でした。

降下角3・5度は世界のほぼ全てのパイロットが経験したことのない急角度になる大問題です。着地の際、機首を上げなければなりません。現行の降下角3度でも、着地時に機体の後部と滑走路との間が1メートル程度しか ないこともあります。特に胴長のストレツチタイプの飛行機では、機首を上げることで尻もち事故が起こりやすくなります。

加えて、急角度で進入することで、滑走路にたたきつけるような着陸(ハードランディング)が起きやすくなり、主翼の前の「セクション41」と呼ばれる胴体や脚部分に、ひび割れやトラブルが生じる危険性もあります。

私の周りの現役やOBのパイロットも、降下角3・5度の話に驚いています。

日本の航空会社はいずれも「スタビライズド・アプローチ」(安定的な進入着陸方式)を採用しています。これは高度1000フィード(約300メートル)、今回の計画で言えば大井町(品川区)上空で、降下率が毎分1000フィード以下などあらかじめ定めた条件を満たしていなければ、危険になるので、着陸を中止して再上昇(ゴー・アラウンド)し、やり直さなければならないというものです。

ちなみに、この時に生じる音量は離陸時とほぼ同じ程度になります。

降下角を3・5度にすると、ボーイング777やA380などの重い機体では、着陸重量や風の変化によっては降下率が毎分1000フィードを超えてしまい、着陸が大変難しくなる危険があります。国交省はこの問題をどう解決するのか、明確に答えていません。

国交省はまた、降下角の引き上げで、騒音の低減を図るとしていますが、大井町では変更前に比べ高度30メートルしか上がらず 、「騒音はlデシベルしか変わらない」とする報道もあります。実際 、国交省は、騒音がどの程度変わるかという具体的データを明らかにしていません。騒音低減の効果もなく、危険なアプローチに変更することは許されません。

羽田空港の低空飛行計画は結局、政府が「訪日客を3000万人から20年に4000万人に増やす」というアドバルーンを上げたのに合わせて、国交省が無理やり出した計画だということです。このような方法で安全運航が脅かされる計画は、やめるべきです。


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